「ケルベロス第五の首」(ISBN:4336045666)メモその8

  • P.88 ハイヒールの婦人靴とグロテスクに長い足、尾骨の数センチ下まで垂れさがっている背中の大きく開いたドレス。むきだしになった襟足。リボンと髪飾りで積みあげ解き編んだ髪。
    • なんだか人間の描写とは思えない。アボ?
  • P.88 ドアを閉じたとき、それと知っていたわけではないが、あの娘は自分とわたしが知っていた世界を終わらせたのだ。
    • 「それと知っていたわけではない」のは「あの娘」。「わたしが知っていた世界」だけでなく「自分とわたしが知っていた世界」を終わらせたことに注意。
  • P.90 つまりきみの息子デイヴィッドと、きみが叔母と呼ぶ女性だ。彼女は実際にはきみの娘だ。
    • マーシュはこれらをどうやって知ったのか? 叔母からか?
  • P.90 わたしは父の書斎に――この部屋に――父と対決しにやって来た。父を殺すつもりだった。
    • 「第五号」と「父」とは全く同じ行動を取る。
  • P.90 それはどうでもいい。
    • 殺人がおこなわれたのかどうかはここでも不明。
  • P.90 わたしは、あなたがここにいれば、第五号にとっても受け入れやすくなるだろうと考えた。
    • どういう意味か? マーシュがアボだということを匂わせているのか?
  • P.92 わたしは自己認識を求めている(中略)そして我々が求めている疑問のひとつは、なぜ我々は探し求めているのか、ということだ(中略)我々はなぜ自分たちが失敗するのか、なぜ他の人々は上昇し変化してゆくのに、我々はここに居続けなければならないのかを解明したいのだ。
    • 停滞して死を迎えようとしているウールスを思わせる。「すべてが試みられ、すべてが失敗に帰した。共通の利益、人民の支配……何から何まで」『独裁者の城塞』325ページより。ところでこの引用部分はどこだっけ、と本を開いたら、ピンポイントで該当ページが開いたのでちょっとびっくり。
  • P.93 これを説明するために工学用語を借りてきて、緩和のプロセスと呼ぼう。
    • ところでウルフは作家になる前、P&G社のエンジニアで、ポテトチップのプリングルズ製造装置の設計とかにかかわっていた。P&Gを辞めた後は技術雑誌の編集者兼ライターになった。
  • PP.93-94 「あなたにやってほしいのは」父はもどかしげに言った。「第五号に、わたしがおこなっている実験、なかんずく彼がひどく厭っている麻酔療法検査は必要なことだというのを理解させることだ」
    • なぜマーシュが理解させる役に立つのか? マーシュ自身「麻酔療法検査」に類似したなんらかの処置の結果だからか? それともアボの夢見との関連か? 「父」はマーシュがアボだと思っているのか?
  • P.94 そしてどんな人間も自分で環境を決定することはできない。この人類学的緩和というべき状況をのぞいては――その場合には自分で自分の環境が準備される。
    • つまり「父」は自分に対する環境を操作することによって自分自身を形作ろうとしている。これはバルダンダーズの実験と同じ発想。
  • P.95 彼は思考でしかコミュニケートできず、そんなことはありえないと知っている自分が最初からそのコミュニケーションを閉め出してしまっているかのように。
    • 単に「第五号」が心神喪失に近い状態になったことを示すのか、それとも文字通りマーシュが「影の子」のごとく思考でコミュニケートしていることを暗示するのか。
  • P.95 あなたはサント・アンヌから来たんだ。
    • 物語の論理からするとこれは文字通り真実だが、なぜ「第五号」はそれに気づいたか。
  • P.95 ぼくたちは人間だけど。
    • 本当か?
  • P.96 そしてすぐに、わたしは父と二人きりになった。
    • "And in a short time my father and I were alone" これが問題の部分。単にマーシュが退出したという意味ではないだろう。マーシュという人物はそもそもこの場に存在したのか? 「第五号」の妄想の産物ではないのか? あるいは「第五号」と「父」が合一化したということを意味するのか? 実は殺されたのはマーシュなのではないか?
  • P.96 看守によるえこひいきと暴力の問題は完全に過去のものとなり。
    • これはV.R.T.での監獄の描写とはずいぶん違う。
  • P.100 そしてどうやら、わたしがなぜ、もはや日々の決まり事となっているこの記録を書いているのかを説明するときが来たようだ。そしてわたしはなぜ説明しなければならないのかも説明しなければなるまい。よろしい。わたしは自分自身を自らに明かすために書いてきたのであり、今書いているのは、いずれ、まちがいなく、わたしは自分が今書いていることを読んで驚くだろうからである。
    • これがこの物語の主題である、トリックなんだろうが、よくわからない。「わたし」という存在は何者かという問いに対する解答なのだろうが。この語り口のわけわからなさもセヴェリアン的。
  • P.101 ドアを開くと、彼女が子供を連れて立っていた。いずれわたしたちが役立つ日が来るだろう。
    • "Someday they'll want us" である。"they" はフィードリアと子供 "the child" だろうが、この子供はここで初めて登場するのに定冠詞の "the" がついているのはなぜか? また "us" は誰を指すのか?
    • 暫定案:"the child" は子供の頃の「第五号」であり、フィードリアはピンク色の服の女性。つまりこれはP.13で描写されたのと「同じ」出来事。"us" とは、「第五号」と「父」の合体した自己。