『ある物語』(ISBN:4336045666)メモその1

  • P.103 "A Story", by John V. Marsch
    • まず誰が書いた「物語」なのか。マーシュについてフル・ネームが出てくるのはこの部分だけなので、これが本当に地球から来た人類学者の名前なのか不明。後で出てくるように「ジョン」はアボの男の名前であり、"V" は数字の "5" つまり「第五号」をあらわすので、作者はアボであり「第五号」でもあるとも取れる。また "Marsch" は「沼地」"marsh" に通じる。
  • P.104 十字架の聖ヨハネ
    • ヨハネという名の人物はキリスト教関係にやたら多いが、これはスペインのカルメル会修道院に属したJuan de la Cruz (1542-1591)を指す。本名はJuan de Yepes。十字架の聖ヨハネは聖テレサとともに跣足カルメル会を創設し、また神秘主義詩人、教会博士としても知られている。主な著作は「カルメル山登攀」「暗夜」など。
    • なぜこの詩が『ある物語』冒頭に置かれているのか。サント・クロアは「聖十字架」なので何か意味があるのは間違いない(ちなみにサント・アンヌは聖母マリアの母親の聖アンナ)が、よくわからない。ちなみに「聖十字架」の出てくる文化人類学SFというとダン・シモンズ作「ハイペリオン」の「司祭の物語」を思い出す。考えてみるとあちらの方がこの十字架の聖ヨハネの詩の内容をストレートに描いているようだ。
    • ちょっとだけ調べてみてわかったのは、1577年、十字架の聖ヨハネは宗教的・政治的な争いから投獄され、九ヶ月間にわたってほとんど身動きも取れないような牢に入れられていたこと。この間に神秘的な啓示を受けて「カルメル山登攀」等の構想が浮かんだらしい。そうすると『ある物語』は獄中でV.R.T.=マーシュが書いたものということになる。これはまあ穏当なところだろうが、カトリック信者であるウルフが単なる思いつきでこのような聖人を引用するわけもないだろう。十字架の聖ヨハネ神秘主義思想とアボリジニの神話との間に何か関連があるのだろうか。どちらも知識がないのでよくわからない。あと聖ヨハネもしくは聖十字架と聖アンナの関連も。