バッハ・コレギウム・ジャパン「ライプツィヒ時代1724年のカンタータ14」
東京オペラシティでのBCJの定期演奏会に行った。演目は以下の通り。
- Dietrich Buxtehude作 BuxWV 207 "Nimm von uns, Herr, du treuer Gott" 「私たちから取り去ってください、主よ、まことの神よ」オルガン演奏今井奈緒子
- BWV 91 "Gelobet seist du, Jesu Christ" 「誉め讃えられよ、イエス・キリスト」降誕節第1日用カンタータ
- BWV 121 "Christum wir sollen loben schon" 「キリストを誉め讃えよう、喜ばしく」降誕節第2日用カンタータ
- BWV 101 "Nimm von uns, Herr, du treuer Gott" 「私たちから取り去ってください、主よ、まことの神よ」三位一体節後第10日曜日用カンタータ
- BWV 133 "Ich freue mich in dir" 「私は、あなたのうちにあって喜び」降誕節第3日用カンタータ
まだ暑いさなかに降誕節用カンタータというのもなんだが、まあしかたがないか。ソリストはソプラノが野々下由香里、カウンターテノールがロビン・ブレイズ、テノールがゲルト・テュルク、バスがペーター・コーイという、最近のBCJの定番メンバー。前回公演に続いてコルネットとトロンボーンをコンチェルト・パラティーノが客演していた。
印象的だったのはBWV 101。まず第2曲はオブリガート楽器として通常はヴァイオリンが用いられることが多いようだが(手元にあるアーノンクール盤、リューシンク盤ともヴァイオリンが用いられている)、BCJの本日の演奏では前田りり子によるフルート(フラウト・トラヴェルソ)が用いられていた。鈴木雅明氏の制作ノートによると、これは以下の理由によるものだそうだ。
BWV 101のトラヴェルソのパート譜は2種類残されており、一つは第1, 2, 6, 7曲を含むもの。ただし肝心の第2曲は斜線で取り消されている。もう一つのトラヴェルソ用パート譜には第6曲と第7曲だけが含まれている。新バッハ全集の校訂者ロバート・マーシャル氏によるとこれは、当初トラヴェルソがオブリガート楽器として想定されていたが、1724年8月13日の初演の前になんらかの理由でヴァイオリンに変更されたというもの。これに対してゲッティンゲン・バッハ研究所副所長のクラウス・ホーフマン氏の説では、当時バッハの難易度の高いトラヴェルソ作品に随時加わっていた氏名不詳のフルート奏者が初演時に演奏したが、再演時には十分な技巧を持ったフルート奏者が手配できなかったためにヴァイオリンで演奏されたというもの。
今回のBCJの演奏はホーフマン説に則ってフルートで演奏されたもの。確かにヴァイオリン演奏によるCD演奏よりも第2曲はずっと印象的な演奏となっていた。もっとも同じ曲を演奏するとヴァイオリンよりもフルートの方が難易度が高いので、奏者が必死で吹いているのが伝わってくるから、というのもあるかもしれない。特にBCJのトラヴェルソ奏者の前田さんはものすごく上手いというわけでもないので、難易度の高い曲では必死感が良くも悪くも伝わってくるように思う。
これ以外では第6曲のソプラノとアルトのアリアが印象的。野々下さんとロビンはどちらもクリスタルで純度の高いな声の持ち主なので、静かにアリアを歌い上げるととても相性が良い。