コープマンのバッハ・カンタータ全集価格改定

現在進行中のバッハ・カンタータ全曲録音と言えば、オランダの指揮者Ton Koopmanアムステルダムバロック・オーケストラとAntoine Marchand/Challenge Classicsから出しているものがある。これはもともと1994年から開始されたプロジェクトで、大手のワーナー/エラートから第12巻(1巻あたりCD2枚-4枚)までリリースされたにもかかわらず、エラートが2002年にプロジェクトを中止したため、コープマンが自分でAntoine Marchandレーベルを作ってエラート既発分を最リリースするとともに後続の巻も精力的にリリースしているもの。現在は18巻まで出ていて、全22巻で完結予定、録音自体は2004年に完了しているとのこと。

従って(筆者の知る限り)現在進行中のカンタータ全集はコープマン、ガーディナー鈴木雅明ということになる*1。コープマンの全集は鈴木/BCJ盤と同様に原則として発表年代順に収録、他の全集と違う特徴として、教会カンタータだけでなく世俗カンタータも含んでいることがある。

今のところ筆者はエラートから出ていたもののうち、初期カンタータの第1巻と、世俗カンタータの第4巻、第5巻だけしか持っていない。コープマンの演奏は悪くはないけども、すごく良いというわけでもないので、1巻あたり6,000円程度という価格もあり、コンプリートに手を付けるのをちょっとばかり躊躇していた*2

ところが今日なにげなくHMVで検索していたら、コープマン盤の価格改定があったようで、1巻あたり約2,000円、CD1枚当たり600-700円に値下げされているのを発見*3。これは相当惹かれるものがある。とりあえず第2、3、6巻を、ガーディナーカンタータ第10巻、リチェルカール・コンソートの新しいカンタータ*4と共にショッピング・カートへ。問題は既にエラート盤で持っている第1、4、5巻をどうするか。やはりコンプリートするならジャケットを揃えたいし、買いなおすしかないか。誰か欲しい人いませんか?

*1:完結済はリリング、アーノンクールレオンハルト、リューシンク。

*2:とは言ってもフルプライスの鈴木/BCJ盤よりは安い。

*3:もっとも現在のところ旧価格のままの巻もある。

*4:BWV 106の収録されているCDを見つけると反射的に買ってしまうのです。

バッハの新発見アリア

9/15はBCJの第70回定期演奏会。仕事はかなり忙しいにもかかわらず、冷たい目で見る部下の視線をちょっとだけ気にしながらいつものように新宿オペラシティへ。前回6/24の演奏会でコラール・カンタータのシリーズが終了したため、今回はちょっと目先を変えて合唱なしのソロ・カンタータを中心のプログラム。

一曲目は1726年の三位一体節後第12日曜日のためのアルト・カンタータ BWV 35 "Geist und Seele wird verwirret"「霊と魂は、惑い乱れます」で、ロビン・ブレイズのソロ。ロビンは一部声が引っかかっているようで万全でないように感じた。オブリガートとしてポジティフ・オルガンが二台用いられ、今井奈緒子と鈴木雅明が演奏。ちょっと鈴木氏のオルガンが前に出すぎていたような気がする。

二曲目は例の1730年の三位一体節後第15日曜日のためのソプラノ・カンタータ BWV 51 "Jauchzet Gott in allen Landen"「すべての国よ、神を誉め讃えよ」で、キャロリン・サンプソンのソロ。この人はテクニックはともかく、堂々として楽しそうに歌うので気持ちがいいですね。トランペットの島田俊雄も真っ赤になりながらがんばっていた。ところでキャロリン・サンプソンは肌のつやとか二の腕の感じからして、てっきり四十代だと思っていたが、プログラムのインタビューを読むとどうやらまだ三十代前半くらいらしい*1。失礼いたしました。

三曲目は今年の5月にヴァイマールで新発見されたばかりのソプラノ・アリアで、BWV 1127と番号がふられた "Alles mit Gott und nichts ohn Ihn"「神と共にすべての事に当り」。ただしこれは全部で12節あるうちの1、3、10、12節のみの演奏。愛らしい曲で悪くはないけれども、同じメロディを12節まで50分間聴くのはちょっとしんどいだろう。なんでも楽譜が世界中で公開されたのが9/4で、プログラム作成時点ではまだどんな曲やらわからなかったとか。それにもかかわらずガーディナーが早くも9/20にCDを発売するのはなぜ?

休憩を挟んで今井奈緒子のオルガンでBWV 534 「プレリュードとフーガ ヘ短調」のあと、バッハと同時代のナポリ派の作曲家ジョヴァンニ・パッティスタ・ペルゴレージの有名な「スターバト・マーテル」をバッハが編曲して詩篇51番に基づくドイツ語詩を付けたBWV 1083 "Tilge, Höchster, meine Sünden"「消してください、いと高き主よ、私の罪を」を、ソプラノとアルトの二重唱で演奏。この曲もちょっと聴くと印象的だし、名曲は名曲なんだろうけど、だんだん飽きてくる。もっともこれはペルゴレージの原曲の問題か。歌詞的にはやっぱり「スターバト・マーテル」の方がぴったりくるように思う。

*1:1995年にバーミンガム大学を卒業とのこと。

「新しい太陽の書」復刊入手

仕事が立て込んでいるにもかかわらず、無理やり会社を抜け出して早川書房創立60周年記念フェア開催中の丸善丸の内本店へ。まず三階の文庫売り場に行くも、それらしき気配がない。店員のお姉さんにフェア会場をきくと、なかなかわからず(大きい書店なのです)五分くらいしてやっと二階だとわかる。

二階のフェア会場に行ったところ、確かに早川のハードカバーの類はかなり置いてあったが、そもそも文庫本がほとんどゼロ。レジで文庫本で復刊されたものは置いてませんか、とたずねるも、特に入荷の予定はないですとの冷たい答え。念のために店内の検索端末で調べてもやはり在庫なし。

このままでは帰るわけにはいかん、と思って東京駅の連絡通路を抜け、店頭在庫情報が確認されている八重洲ブックセンターに早足で移動(いやあ暑かった)。こちらは一階を入ってすぐ右の目立つ場所にフェア特設売り場があり、ちゃんと「新しい太陽の書」全四巻が平積みで置かれていた。ああ、この日を何年夢見たことだろうか。すかざず予定通り2セットずつゲット、レジのお兄さんが「同じ本二冊ずつでいいんですか?」と不審気だったのもご愛嬌。手元のボロボロになって茶色に変色した「新しい太陽の書」も愛着があるけれども、やっぱりピカピカの新刊はいい。

ところで「拷問者の影」でもまだ初版が出てから19年しか経っていないのに相当痛んでいるわけで、やはり文庫本というのは長期保存には向いていないようだ。今度の再版の紙質がどうなのかはわからないが、まずまずのコンディションで保存できるのは20年から良くて30年というところか。電子化というのもありだろうが、やはりこのような名作は長期保存可能な良質の紙で、しっかりした装丁で出てくれるとありがたい。文庫復刊はとりあえずめでたいけれど、そういうのも欲しいなあ。

売ってない

今日は都会に出る時間がなかったので、とりあえず地元でそこそこ大きい書店を二軒まわってみたが、どちらにも「新しい太陽の書」は見あたらなかった。ひょっとすると「早川書房創立60周年記念フェア」を開催している全国で28店だかの書店にしか在庫がないのだろうか? 月曜に勤務先近くの書店にもなければ、早めに会社を出て丸善丸の内店にでも行くしかないか?

もちろん地元の本屋でも注文すれば購入可能だろうし、オンラインで購入することもできるが(もっとも本日現在AmazonにもBK1にもないようだが)、やっぱり書店で平積みしてるのを見たいしね。しかし、これではSFMの重版情報とかでたまたま気がついた人以外は復刊されたことにも気がつかないかも。

しょうがないのでこちらも復刊された「銀河ヒッチハイクガイド」と「宇宙の果てのレストラン」を買ってきた。映画の方はどうなんでしょうね。二週間だけの公開なので、無理して会社帰りに観てきたほうがいいだろうか。

「新しい太陽の書」遂に復刊

本日、八重洲ブックセンター紀伊国屋新宿本店にて、早川創立60周年記念フェアで「新しい太陽の書」が並んでいたとのこと。明日は都会に出る時間がないので、地元の一番大きい本屋で入手できるかどうか。

ガーディナーのバッハ・カンタータ巡礼シリーズ

今日は三位一体節後第15日曜なので、該当するカンタータBWV 138, 99, 51の三作品。一年前の2004年9月19日には鈴木雅明、ジョシュア・リフキン、ジェフリー・トーマスの演奏を聴いたが、今回は今年発売されたジョン・エリオット・ガーディナーのバッハ・カンタータ巡礼シリーズのCDが手元にあるのでこれを聴いてみた。

ガーディナーの「バッハ・カンタータ巡礼」"Bach Cantata Pilgrimage" とは、2000年のバッハ・イヤー*1に合わせてガーディナーとイングリッシュ・バロック・ソロイスツ、モンテヴェルディ合唱団が1999年のクリスマスから始めたとんでもないプロジェクト。世界各地の教会を訪れて、バッハの教会カンタータ全曲を該当する協会暦に毎週、しかも一年間で全部演奏・録音してしまうというとんでもないもの。

もちろんバッハ自身毎週平均一曲の新作カンタータ作曲というペースを数年間続けたり、録音という意味では同じくバッハ・イヤーに合わせてピーター・ヤン・リューシンク指揮、ネザーランド・バッハ・コレギウムが約1年半でカンタータ全曲録音というのもあるけれども、ガーディナーの場合毎週毎週別の都市の別の教会に移動しながらライブ録音をおこなっていったわけで、とても人間業と思えないというか、なんでそんなことをやろうと思ったのか。

今のところ2枚組のセット3巻が発売されており、内容は

  • 第1巻が2000年6月23日から26日にかけてロンドンでの録音で洗礼者ヨハネの祝日と三位一体節後第1日曜日のカンタータ
  • 第8巻の1枚目が2000年9月28日ドイツはブレーメンの録音で三位一体節後第15日曜のカンタータ、同じく2枚目が2000年7月10日スペインのサンティアゴ・デ・コンポステラの録音で三位一体節後第16日曜のカンタータ
  • 第24巻の1枚目が2000年5月14日ドイツのアルテンブルク録音で復活節後第3日曜日、2枚目が2000年5月21日英国はワーウィックでの録音で復活節後第4日曜日のカンタータ

となっている。

このようにCDが教会暦順に録音されているため、今日のように教会暦に合わせてカンタータを聴きたい場合はけっこう便利*2。ちなみに第8巻の1枚目にはBWV 138, 99, 51の他に演奏された日付が不明のBWV 100も収録されている。

いったいこのような無謀とも言えるスケジュールでどのように練習時間を取ることができたのだろうか。演奏もきわめてまっとうなもので、やっつけ仕事的なところは少しもなく高水準といっていいだろう。さすがにソリストは固定せず毎回メンバーを変えているけれども、それはそれでいろいろな歌声が聴けて良いといえる。

なおこのとんでもないシリーズは当初はドイツ・グラモフォン/アルヒーフからCD発売される予定だったのが、同社が恐れをなして、結局ガーディナー自身が設立したNPO法人Monteverdi ProductionsのもとでSoli Deo Gloriaレーベルから発売されている。録音自体は全て完了しているので、とにかく資金の続くうちになんとか全部リリースしたいのだろう。Monteverdi Productionsのオンライン・ショップから今後リリースされる全CDを予約すれば、全世界どこでも送料ゼロで定価より25%安い15ポンド(2枚組)で各CDリリースの都度送付するとのこと。けっこういいかもしれない。

それからバッハのカンタータに限らず宗教音楽のCDと言えばだいたい宗教的な絵画を用いたジャケットが通例だが、このシリーズは有名な写真家Steve McCurrayの写真を使っていてなかなかかっこいい。装丁も一切プラスチックを使わない紙だけで好デザインだが、丁寧に扱わないと分解してしまうかもしれないのが難点。

でもBWV 51のソプラノはガーディナー盤のMalin Harteliusよりも、トーマス盤のジュリアンヌ・ベアドの方がいいな。

*1:1750没のバッハの死後250周年です。

*2:他のカンタータ全集では、リリングの全集とアーノンクールレオンハルトの全集がBWV順、鈴木雅明の全集とコープマンの全集が作曲年代順、リューシンクの全集が特に意味のないバラバラ(というか、演奏の簡単なものから録音していったらしい)となっている。

久しぶりに本館更新

最後に更新してから一年以上経ってしまいました。間が空いてしまうとますます取り掛かるのが億劫になるもので、取りあえずビブリオとか更新しやすいところからでも再開しようかと思います。

ビブリオをまとめていてあらためて思ったのですが、ここ数年のウルフの創作スピードは相当なペースですね、2004年以降だけでも新作長編が "The Knight" と "The Wizard" 、短編集が "Innocents Aboard: New Fantasy Stories" とこの間出版されたばかりの "Starwater Strains: New Science Fiction Stories" と続いています。この二冊の短編集はファンタジー編とSF編に分かれているようで、これでほとんどの短編は単行本に収録されたようです。また新作短編も2000年以降、ほぼ毎年6作の割合で書かれているようです。具体的には毎年春にアシモフ誌に一作、秋にF&SF誌に一作、さらにRealms of Fantasy誌に一、二作、その他アンソロジーに二、三作というなかなか規則的なペースで作品を発表しています。

今秋開始予定の国書刊行会未来の文学>第2期では「デス博士の島その他の物語」も刊行されるようですが、日本でもなんとか継続的にウルフ作品が翻訳出版されるといいですね。